千種有宗の「こころなき身ゆゑ」

歴史・文化・詩歌・音楽について語ります。

『万葉集』の中の七夕

 

 

はじめに

 

 みなさま、こんにちは。千種有宗です。

 

 今日は七夕ですね。先程は、七夕にちなむ拙歌を何首かご紹介しました。今回は、『万葉集』の中から、七夕にちなむ歌を2首ご紹介しようと思います。

 

 

 

万葉集』の中の七夕歌

 

 日本最古の歌集である『万葉集』の中には、たくさんの七夕歌が採録されています。その一部をご紹介します。

 

天の川 霧立ち渡り 彦星の 梶の音聞こゆ 夜の更け行けば

天の川に霧が一面に立ち、彦星の梶の音が聞こえる。夜が更けてゆくと*1

 

 空にきらめく星々=天の川を、彦星と織姫との間に流れる川と見立てていますね。そこを彦星が船に乗って梶を漕ぎ、織姫のもとへと渡ってゆくのです。天上の星々の視覚的なイメージから、彦星が漕ぐ梶の音という聴覚的なイメージへと歌が移り、最後には夜更けの静けさに終着する。印象的な歌ですね。

 

 では、もう一首ご紹介しましょう。

 

明日よりは 我が玉床を 打ち払ひ 君と寝ねずて ひとりかも寝む

明日からは、私の寝床の塵だけ払って、あなたと寝ないで独りで寝ることでしょうか。*2

 

 一年に一度の逢瀬に浮かれるのも束の間。織姫は一夜が更けると、もう一年間彦星に逢えなくなるのです。その女性の悲しみが歌われていますね。寝床の塵を払ってみても、そこに一緒に寝るはずの彦星はいない。その動作を歌うだけで、織姫の心情が手に取るようにわかりますね。床の上に座って塵を払う織姫の憂いを帯びた表情、床に広がる黒髮の艶やかさ。想像が無限に膨らんでゆく歌ですね。

 

 

おわりに

 

 以上、『万葉集』から七夕歌を2首ご紹介しました。

 今年はあいにく天気が優れないようですが、きっとこれは彦星と織姫が自分たちの逢瀬が人に見られるのを恥ずかしがっているのでしょう。二人が素敵な一夜を過ごせるといいですね。

 

 それでは今日は此の辺で。ありがとうございました。

 

 


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*1:万葉集』巻第十:2044

*2:万葉集』巻第十:2050